朝日新聞 朝刊(2006.12.29)
筑前・中2自殺 調査報告概要

福岡県筑前町での中学生の自殺をめぐる調査委員会最終報告書の概要は次の通り。
【1】 はじめに(略)
【2】 いじめに関する定義(略)
【3】 事実確認 

① 当該生徒と他の生徒とのかかわり
 当該生徒は、入学当初から自殺まで、周囲の多くの生徒から長期にわたって「からかい」「冷やかし」などを受ける状況にあった。当該生徒は、相当な負担 感、精神的な苦痛を受けていたと十分に推測される。他の生徒には、当該生徒が「からかい」や「冷やかし」を意に介していないように見えていた。
 自殺当日のトイレでの出来事については、「いじめ」というよりふざけあいのように見えるが、長期にわたる「からかい」や「冷やかし」と同様に、相当な精神的苦痛となったと推測される。

② 当該生徒と教職員とのかかわり
 三輪中の教職員は、当該生徒がいじめられていた、あるいは「からかい」や「冷やかし」を受ける存在であったと認識していなかった。
 1年時の担任については、当該生徒のみならず他の生徒に対しても不適切な言動があった。当該生徒をからかいの対象とする状況を促した可能性がある。ただし、こうしたからかいは小学校の時からあったという証言もある。同教諭を評価する発言もある。

③ 学校の対応
 本事案について事前に特段の措置を講じていた事実は存在しない。一般的ないじめ対策については、「いじめ早期発見・指導の手引」の活用をしておらず、「いじめ・不登校対策委員会」が十分機能していないなど、具体的な対策を十分に講じてはいなかった。

④ 町教委の対応
 各学校の実態に応じた細かな状況把握がなされていたという事実は確認されていない。

【4】 本委員会の解釈と判断
① なぜ自殺に至ったか
 自殺に至った精神的苦痛の最も大きな原因の一つは、長期にわたる「からかい」や「冷やかし」などの蓄積によるものと推測するものであり、それは「いじ め」に相当すると判断する。精神的苦痛は、孤独感を伴った非常に大きなものであったと想像される。したがって、「いじめ」の有無に関しては次のように判断 する。
 複数の生徒による「からかい」や「冷やかし」などは、入学当初から自殺に至るまでの間、長期にわたって続いていた。この結果、生徒が非常に強い精神的苦 痛を受けていたであろうことが十分に推測される。自殺に至った原因として、こうした長期にわたる「からかい」や「冷やかし」などの蓄積が大きな要因の一つ となったものと推測される。しかし、教職員や保護者を含め、自殺以前からこうした行為が「いじめ」であると認識した者は存在しなかった。
 なお、すべての「からかい」や「冷やかし」が一律に「いじめ」と判断されるべきではない。
 教職員には、いじめられる側の深刻な苦痛という観点が欠けていたこと、学校全体として「からかい」や「冷やかし」に対して感度が鈍くなっていたこと、 「いじめ」問題に対する教職員個々の意識が希薄であったことなどの状況があり、結果として生徒が「いじめ」によって精神的苦痛を受けることになった間接的 な原因と考えることができる。

② 自殺をなぜ防げなかったか
 1年時の学級担任については、当該生徒に対する「いじめ」をあおった事実はないが、不適切な言動がその時々の「からかい」や「冷やかし」につながる要因 となったことは否定できない。しかし、そうした言動は自殺したおよそ半年前から1年前のことであり、自殺の直接的な要因と考えることには無理がある。
 2年時の学級担任については、「からかい」や「冷やかし」に気付き、最も適切に対処できる立場にあったが、状況の深刻さを把握できず、結果として具体的な指導をしていなかった。疑問を呈さざるをえない。
 その他の教職員については、問題の解決ないし改善が可能な立場にはなかった。しかし、教科指導や部活指導を通じて生徒の異変に気付かなかったことについては疑問を呈さざるをえない。
 管理職については、日頃からなされるべきいじめ対策を講じていたとは言い難く、校務運営が漫然となされていたと判断されることから、校長及び教頭の責任は重い。
 町教委は、三輪中において「いじめ」対策が漫然となされていたことに対して、これを防ぐ努力が足りなかった。
 特定の生徒に自殺の原因を求めることはできないが、死に至らしめることとなった結果について関連性を否定することはできない。「死」を軽くとらえていたとも考えられ、「いじめ」が反社会的行為であることを指導していく必要がある。

【5】「いじめ」克服への提言
 学校においては、子ども同士のトラブルを子どもたちの話し合いで解決し克服していくよう指導し、その積み重ねによって「いじめ」を克服し、なくしていく 力を育てる必要がある。また、「いじめ」は人間としてもっとも恥ずべき行為であることをしっかり教えるとともに、相互に理解し合う人間関係を築くことがで きるよう、コミュニケーション能力を高める指導などを行う必要がある。
 家庭においては、子どものことをしっかり見て、気になることがあったらすぐ学校と協働して解決を図るとともに、道徳的なしつけをきちんと行う必要があ る。学校・家庭・地域がしっかりと連携し、子どもの育ちに必要な生活体験や遊び体験などが年齢相応にできるような場の設定などの取り組みが必要である。
【6】おわりに
 「いじめ」事案において自殺事件が発生した場合、危機管理体制の確立は非常に重要な問題である。本事案で言えば、町教委による迅速な調査の実施により、 学校や地域が混乱状態に陥ることを回避する必要があった。本事案は単に「いじめ」問題のみならず、今日の教育委員会や学校現場の教育的な課題を鋭く提示す る事案であった。 inserted by FC2 system